~四ツ谷駅前にまつわるお話を少し~

芥川賞作家又吉直樹の著書『東京百景』の中に『四ツ谷駅の黄昏』という小品があります。

『四ツ谷の駅前にタクシー乗り場と隣接した公衆便所がある。
僕が便所に向かうと先頭に待機していたタクシーの後部座席が開いた。
運転手さんに乗車すると思われている。申し訳なく思い、危うく乗ってしまうところだった』


実際に駅前トイレを利用してみるとその構造から話の意味が理解できます。

『二十歳の時に初めて深夜のレギュラー番組を戴き本当に嬉しかったが、凄く緊張して毎回収録に行くのが怖く、可能な限り四ツ谷駅から麹町のテレビ局までゆっくりとゆっくりと歩いた』

自分が如何ほどの者になれるのか、どこにも辿り着けないのではないかという無名の若者の不安な心情が伝わってくる内容です。

後に才能を開花させるその頃の又吉氏を四ツ谷麹町界隈の雑踏がそっと見守っていたのですね。